talulah gosh's blog

リハビリがてらの備忘録(昔のブログは http://d.hatena.ne.jp/theklf/ )

2021/12/13(月)点が線になる

「レイヴ・カルチャーーエクスタシー文化とアシッド・ハウスの物語」読了。音楽史かと思っていたらドラッグ:クラブ=7:3くらいの割合だった。どちらかというとクラブやクラブミュージックはドラッグが一般的に広がるきっかけであり触媒であるとの位置づけで、内容の印象に近いのはサブタイトルのほうだなと思った。ただ英語圏のニュアンスを知らないのでカルチャーという単語の取り方が違うかもしれないし、私が思う以上にクラブとドラッグが密接だったかもしれないから、この印象は読んだ人によって違うと思う。

レイヴ・カルチャー──エクスタシー文化とアシッド・ハウスの物語 | ele-king

私が10〜20代の頃はセレクトショップが花盛りで、海外の文化のいい所を取り入れて独自に成長させるのが日本の強みだと言われていた。たぶんクラブもその一つで、持ち込んだ人の視点が強く出た文化の一側面を、さらに受け手たちが一人ひとりの感覚や常識や環境に当てはめて変形させながら日常へとなじませていったのだと思う。私にとってはクラブは身構える必要はあれ興味の勝る空間であり、ドラッグの話も聞いたことはあったけど遠い話だった(特殊街道のプロはいい意味でも悪い意味でも人を見る力があるのだと思う)。素面で堅いミニマルやハードコアテクノ、ハッピーハウスを6時間くらいは踊り続けられた。朝の気だるさはスポーツの疲れで、異世界はクラブの中にしかなくドアから外に出ればまたいつも通り。土曜は朝ごはんを食べた足で学校にテストを受けに行くこともできた。そのうちにDJがかける曲を記録したくてひたすら覚えて寝る前に書き写すようになったから、なおさらぼんやりしている暇がなかった。そんな捉え方が王道だとも思わないけど、それが自分とクラブとの距離感だった。

90年代半ば頃、『i-D』だか『mixmag』だかに親くらいの年齢の人々がクラブで楽しそうに踊る写真があって「日本でもクラブがこんな風に文化として根づくべきだ」なんて真剣に思っていた。でもその頃の私がこの本に書いてある現地の様子やクラブが広がった背景を知ったとして、それでもそう思えたかどうかはわからない。英語がほとんどできず、ある程度の分別がつくまでこの本に出会わなかったのは逆にラッキーだったのかも。そう感じるくらい、イギリスが歩んできたクラブミュージックとクラブという場の歴史は、楽しさとわくわく感以上に厳しさと危険を孕んできたことを実感させられた。ドラッグとクラブミュージックを媒介に、居場所を探す社会からあぶれた人々とその居場所を奪い取ろうとするギャング、文化の上澄みだけをさらうビジネスマン、そして行政。枠組みはほぼ変わらず人と音楽性を変えただけで、10年ほどの間に同じような攻防戦が何度も繰り返される。結果的に居場所を探す人々とギャングが共倒れになり、成功した外部のビジネスマンが当事者として歴史を語り始める。そんな流れが克明に記されているが故に、夜中に一人で腹を立てながら読んだりもした。ただその合間に、ビジネスにはならなかったハードコアテクノが少ないながら(たぶん資料も少ないのだと思う)記述されていて安心した。そういう部分があるこの本はいい本だと思う。

かつて国内で手に入るレコードと情報だけで断片的に知っていたできごとが、丁寧な記録によって時間軸で繋げられていくのはどこかひさしぶりで楽しい経験だった。ただ、一番好きだったバレアリックハウスが展開の流れからは読み取りづらかったせいか、自分の体験と繋げられなくて残念(マンデーズやDJが数名コメントを出していた初期ハウスやジャングルとかの辺りは別。ジャングルって他のジャンルより出てきたのが遅い印象があったけど実際はそうでもなかったと再確認できた)。ある程度は目星がつけられるとはいえ、その辺の関連づけがもう少し読みたかった。私が聴いていたあのバレアリックハウスは、あのトランスは、あのハードコアテクノは、いったいどの状況で楽しまれていた曲だったのか。もしかして日本でしか流行っていなかったのか。SpookyのLand of Ozはクラブの名前から取られたのか、単なる『オズの魔法使い』なのか。

この間、初めて行ったクラブがあった近くをひさしぶりに歩いたら、信じられないほど治安が悪くなり、ゴミが増え、大人が地べたに座ってストロング缶を飲んでいた。荒んだ空気が充満していてなんだか悲しくなってその場を急いで通り過ぎた。新自由主義が押し進められて20数年経ち、日本の景気は悪くなってからなかなか戻らない。日本ではそんな動きが生まれるとは到底思わないけど、イギリスのクラブカルチャーが生まれた頃に時代の空気は似ているのかもしれない。

かつて想像した形ではないけど、日本でもクラブはそれなりに根づいたし、ごく狭い界隈で有名だったアーティストの名前も通じるようになった。そんなおの国で、90年代に入ってきたクラブの文化はどんなふうに残されていくんだろうか。私もそうであるように、英語が母語ではなく二次情報、三次情報で受け取る層も多かった日本では、誰もが自分なりの歴史を持っているはず。イギリスと同じように国内でも地域によって全然違う動きがあったこともよくよく知っている。昨今、ハードコアやガバあたり(このジャンルはやっぱりDIY精神が強い)では90年代の状況を記録しようという流れが出ている。自分もこの辺りの記録を改めて見直しておこうと思っている。そんな気持ちにさせられる、クラブの世界にどっぷり漬かることができる濃い一冊だった。あと、この記録はあくまでメモで、今後も気づいたことは書き足していくつもり。

Alterd Statesって言ったらやっぱりRON TRENTだし、ホラーネタのハードコアで思い出した4HEROのMr.Kirks Nightmareとかをひさしぶりに聴き直した。いつまでもかっこいいものはかっこいい。