talulah gosh's blog

リハビリがてらの備忘録(昔のブログは http://d.hatena.ne.jp/theklf/ )

6月28日(金)Twin Tower Talk vol.6@下北沢GARAGE

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group_inouのimaiさんとグランジ五明さんがホスト役のトークライブも6回目。これまでアーティストやミュージシャン、お笑い芸人(はレアだったかも)と幅広いジャンルの方が登場してきたが、今回は過去にシングル「MANSION」や「EYE」の7インチのデザインなども手がけた水野健一郎さんがゲストだった。

オープニングの近況報告では、夏フェス出演やアルバムリリース、そのパーティで忙しくなりそうだというimaiさんの話や、五明さんがbayFMでパーソナリティを務めるラジオの話が中心だった。ずっと依頼していたMOROHAがゲストで嬉しいという話から、imaiさんのリリースパーティがちょうどラジオのある木曜日で悔しがる五明さん。「すっごく行きたかったのに!」と訴える様子を尻目に、「適当に決めちゃったんで。五明さんのごの字も浮かばなかったですね」とさらりと流すimaiさんの感じが相変わらず最高だった。

トークもそこそこに、水野さんの作品「仮想世紀エレベーションEV」上映のちご本人が登場。アニメーションに取り組み始めたきっかけとともに、高校時代に映像研究会のメンバーで制作した8ミリアニメが上映された。5分以上もある大作で、高校生の作品とは思えないクオリティにとにかく驚いた。「マジンガーZ」や「イデオン」、「ガンダム」、「マクロス」などロボットアニメが好きだったところに、(岐阜出身もあるのか)5歳ほど年上の庵野秀明監督たちが大阪芸大で制作したDAICON FILMに影響を受けてアニメ制作を始めたそう。脚本と絵コンテ担当の監督に割り振られたパートや話に乗り切れず、「せっかく労力をかけるのにつまらないのはしんどい」と自分なりに場面を書き足した(藤子・F・不二雄系のキャラがときどき出てくる)、提出したら「余計なことを」と言わんばかりの表情をされた、などマイペースなエピソードがどれも面白い。恐らく想像力や才能が周りより圧倒的に上回っていたからなのだろうけど、才能のある人は昔からその片鱗が見えているのだと改めて思った。
「11個の作風を紹介すればだいたい自分がわかってもらえる」とのことながら、時間に収まらないため約10年スパンでの作品紹介に。水野さん曰く「自分を出せて楽しくできた仕事」を中心に、まずはNHKTR2」の短編数本。個展をした時のブックにマジンガーZを描いていたら、それを見たNHKのディレクターさんに誘われ、番組終了までの約2年間、月に3本ほど制作していたそう。作品は「TR2」のロゴさえ入れればどんなデザインでもOKというステーションID的なもの数本だった。次が「ベビスマ」の番組IDで、こちらも「SMAP×SMAP」というロゴさえ入れればOKの2本。(人型の部品を口から呑み込む場面が)震災後でNGになった宇宙人編、根は優しいヤンキーと女子高生の逃避行編、どちらも現在の水野さんを思わせる作風だった。「ベビスマ」は作業行程を追う内容で、その取材チームがヤンキーの特攻服の刺繍(なぜかL→Rの曲名)に着目しすぎた結果、仕上がりに乖離が生まれ(別書きの女子キャラを組み合わせたら刺繍が見えなくなった)ナレーション変更で放送が1週ずれたとのこと。さらにその当日が地デジ切り替え日で見られない人も多く、「周囲の環境に翻弄された2本」だと苦笑されていた。

ここまでで思ったのは、作品を追うと使用ツールや技術の変遷も見え、モチーフの描写の仕方にも影響が出ていて面白いということ。DTPDTM同様2D〜3Dの描画ツールや映像ツールも進化してきたけれど、高校時代の8ミリや手描きにコマ撮り、「TR2」時代の借りたパソコンで学んだFlashアニメーション、英語版AfterEffectでの効果や3Dモデリングツールでの立体感など水野さんの作品からもよくわかった。しかもそれが作風の増加に一役買っているのだからすごい。雷が落ちて感電する短編では、「英語版AfterEffectを初めて使った時に唯一漢字変換されていた『雷』効果」に経験即で学んだ感電の表現(フラッシュの後に目が眩んで一瞬真っ暗になる)が組み合わされて一つの表現になっていたり、馬が戦闘機になる短編では「初めて3Dモデリングを取り入れた」けど「フリーツールで影が反映されないので一コマずつ別でつくって合成した」というデジタルとアナログの移行期の工夫が見えたりなどものすごく興味深い。見た目にはアナログな作風ながら作品中にさまざまな実験をしている様子がよくわかって、この時点でも充分すぎる貴重さだった。
さらに、映像作家で「文字を読むのが苦手」にも関わらず、「アイデアはテキストで書き留める」という水野さん。実際に書き留めておられた「ワードアタック」と呼ばれるテキストメモは10年分以上ある膨大さで(Twitter以降はその熱が薄れてきたそうだけど)、そのどれもが散文詩のように美しい。ある時「テキストもアニメの要素として入れ込めばこれらも無駄ではなくなる」と閃いてからは積極的に活用しているらしい。その最初の作品がパンクバンドの客入れムービー「TEGWON STORIES」(NOWGETのアナグラムぽい)だったけどもう驚くしかなかった。ワードだけでなくイタリア未来派のイントナルモーリを思わせるような奇妙な音づかいや昭和の「ウルトラQ」的な隠ったセリフなど音の面もかなり独特で耳に残る感じ。imaiさんが「音楽をやっている人だとこういう使い方はしない」と評したのも肯けた。
最後は、「RED BULL MUSIC ACADEMY2014」のサカナクションの映像。顔を似せるためにひたすら似顔絵を練習し、これぞという変顔を入れたらファンから好評価をもらったことや突然ラフ提出を言い渡され嫌がらせのように縮小した縦長の絵コンテを送ったりことなど裏ネタもたくさん。デジタルサイネージや渋谷のデジタルOOHなどに表示させるために解像度の高い状態かつ縦横のトリミングに対応した作品になっていたあたりは、まさに現代のアートという感じがした。
ホスト2人への切り返しがものすごく面白かったのも発見の一つかもしれない。さしいれ対決ではimaiさんタイ産の奇形スマーフ(imai)vsビールのドンペリ「INEDIT」(五明)で、いろいろ迷って奇形スマーフ勝利。このシンプルなやり取りにも水野さんの面白さが随所に現れていた。
質疑応答では「好きなUMAは?」、「何におびえているんですか?」などファンらしい質問があり、最後の「七夕にお願いしたいことは?」では、imai「売れたい(お茶の間で曲が流れるくらい)」、水野「今の3倍収入がほしい」、五明「売れてきちんとギャラを払って作品を作ってもらい、水野さんのアニメVTRとimaiさんの音楽を使った単独をやりたい」など野望を秘めた回答をしていた。

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ホスト2人が本当にファンだという人しか呼んでいないからだろうけど、作品知識や事前調査もされていて上滑りした感がなく実がきちんとある。毎回作品と作者の思いを照らし合わせながら見て聞けるので、実際に発見も多い。いつも何かを持ち帰ることができる、来た甲斐のあるトークライブなので末長く続いてほしい。

#ライブメモ #twintowertalk #group_inou #グランジ #水野健一郎