talulah gosh's blog

リハビリがてらの備忘録(昔のブログは http://d.hatena.ne.jp/theklf/ )

地下鉄にて

向かいに座る女の人が知り合いによく似ていた。細身で小づくりで無駄のない体型と、目を瞑り俯いている時のまつげの感じが似ていると思った。

20代の頃の憧れだったその人とは、今はもう疎遠になってしまった。何か理由があってという訳ではないから(ひとつあげるとするなら、職場が変わって物理的な距離ができたせい)、ちょっとしたきっかけで思い出したりする。

一回り年上だと聞いたから、出会った時にはもう40歳目前だったはず。それなのに、色が白くて目が大きくてかわいらしいという形容詞がよく似合っていた。もちろん、頭がよくて仕事もできる。ただ、常に燻り続けてきた私には、それだけでは素敵だと思える憧れの対象にはならなかったし印象にも残らなかったと思う。

その人は、そんなに明るい光を纏いながらも、稀に翳った何かを覗かせることがあった。わざとではなくて、大人の抑えた浮き沈みの中でうっかり抑えきれなかったものがほんの少し見えた、という程度のものだ(人間観察ばかりしていた頃だったので、そういうことにはよく気づいた)。それは私が「仕事先のバイトさん」という立ち位置では理由などおよそわからないだろうという、少しの、でも絶対に縮まらない距離を感じさせた。そんな得体の知れない部分があるということが、とても魅力的に映り、他の人には感じない興味を持たせたに違いない。

私が偶然座り、似た彼女を偶然見かけたのは地下鉄の中だった。蛍光灯の微妙な薄暗さが余計に強くそのことを思い出させた。景色の変わらない真っ暗な窓の向こうを眺めつつ、元気でやっておられるかなあ、と思った。